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大阪高等裁判所 昭和46年(ツ)42号 判決

上告人

米田一馬

右訴訟代理人

沢辺金三郎

外一名

被上告人

平井耕作

右訴訟代理人

山田利夫

外二名

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人沢辺金三郎、同沢辺朝雄の上告理由第一点(一)について。

本件係争地を原判決添付図面(A)'(B)'線をもつて東西に二分し、その西側部分は二二〇番地の土地であり、その東側部分は三二九四番地の土地である、とした原審の認定判断は、原判決挙示の証拠に照して肯認することができる。原判決に所論の違法は認められない。

同第一点(二)について。

原判決添付図面(一)に(D)点の表示がないことは所論のとおりであるが、(A)、(B)、(C)、(D)、(E)、(F)、(A)の各点を順次結ぶ線に囲まれた土地が本件係争地であるから、右(D)点が、第一審吹田簡易裁判所昭和三四年(ハ)第四四号昭和四一年一一月一日判決添付図面の(D)点と同一の点であることは明白である。原判決に所論の違法は認められない。

同第二点について。

一、(一)  甲所有の不動産についてAの取得時効が完成した後、乙、丙、丁が、甲から、右不動産の各三分の一の共有持分権の譲渡を受け、その旨の登記を同日に経由し、乙、丙、丁の右登記後に、Aが、なお引き続き時効取得に要する期間占有を継続した場合、乙が、丙、丁から、右再度の取得時効完成前に右不動産の各三分の一の共有持分権の譲渡を受け、右再度の取得時効完成後にその旨の登記を経由したとき、Aは、乙に対し、登記を経由しなくとも、右不動産全部の時効取得をもつて対抗しうると解するのが相当である。けだし、甲から乙、丙、丁への共有持分権移転登記により、乙、丙、丁は、各三分の一の共有持分権取得をもつてAに対抗しうることになり、乙、丙、丁の右登記の日から、右不動産全部について、Aの再度の取得時効が進行し(最高裁判所昭和三六年七月二〇日第一小法廷判決、民集一五巻七号一九〇三頁参照)、乙は、丙、丁から、右再度の取得時効完成前に不動産の各三分の一の共有持分権の譲渡を受け、右再度の取得時効完成後にその旨の登記を経由したのであるから、乙が丙、丁から取得した各三分の一の共有持分権についても、Aは、登記なくして、時効取得した右各三分の一の共有持分権を対抗することができるからである(最高裁判所昭和四二年七月二一日第二小法廷判決、民集二一巻六号一六五三頁参照)。

(二)  甲所有の不動産についてAの取得時効が完成した後、乙が、甲から、右不動産の三分の一の共有持分権の譲渡を受け、その旨の登記を経由し、乙の右登記後に、Aが、なお引き続き時効取得に要する期間占有を継続した場合、乙が、甲から右再度の取得時効完成前に右不動産の残余の三分の二の共有持分権の譲渡を受け、右再度の取得時効完成後にその旨の登記を経由したとき、Aは、乙に対し、登記を経由しなくとも、三分の一の共有持分権(乙が当初取得した共有持分権)の時効取得をもつて対抗しうるが、残余の三分の二の共有持分権の時効取得をもつて対抗し得ないと解するのが相当である。けだし、甲から乙への当初の三分の一の共有持分権移転登記の日から再度の取得時効が進行するのは、右三分の一の共有持分権についてのみであり、残余の三分の二の共有持分権については、甲から乙への右三分の二の共有持分権移転登記により、乙は、右三分の二の共有持分権取得をもつてAに対抗しうることになり、右三分の二の共有持分権移転登記の日から、再度の取得時効が進行することになるからである。

二、原判決は、「甲地すなわち西側部分については、上告人において、昭和一五年六月二一日に中谷六郎および光本重雄と共同して、前主である扶桑殖産株式会社から、これを買い受けて所有権を取得し、かつ同年七月二日にその旨の共有登記を経由し、さらに昭和二三年六月一四日に右中谷および光本の各持分を買い受け、昭和二五年一〇月二三日その旨の持分移転登記を経由した。」と、判示した上、「被上告人は、中谷、光本および上告人の三名の右共有登記のなされた昭和一五年七月二日から昭和二五年七月二日まで一〇年の期間引き続き甲地につき所有の意思をもつて平穏、公然、善意、無過失に占有を継続したものであるから、これにより再度取得時効が完成した。ただ被上告人は甲地につき右時効完成による所有権取得登記をいまだ経由していないが、上告人が中谷、光本の各持分を買い受けたのは右取得時効完成前である昭和二三年六月一四日であり、また上告人が右各持分の移転登記を受けたのは右取得時効完成後である昭和二五年一〇月二三日であるから、被上告人は、上告人に対し、右所有権取得登記がなくとも、右時効取得をもつて対抗し得る。」旨判示した。

したがつて、本件は、前記設例(一)の場合に該当し、原判決に所論の違法は認められない。

論旨は、前記設例(二)の事実関係(原審確定の事実と異なる事実関係)を前提とした場合にのみ通用する見解であり、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、主文のとおり判決する。

(小西勝 常安政夫 野田宏)

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